人生で最悪の出来事
私は昔、月に数回のペースでタクシーを利用していました。
仕事で仲のいい先輩と定期的に飲みに行くことがあり、うっかり時間を忘れて終電を逃してしまった時なんかに利用する程度。
いつもはスマホで動画を見たりゲームをして過ごしたり、たまに話しかけてくるドライバーと、酔って気分が高揚した状態で和気あいあいと話したりして家までの時間を過ごしていました。
しかし一度だけ、「もうあんなタクシーに乗るもんか!」と思ってしまった、嫌な出来事がありました。
深夜のタクシー
その日も私は、笑い上戸な先輩のマシンガントークに付き合い、気がつけば夜中の12時をまわっていました。
「まーた今日もタクシー帰りですよ、まったくー!」
先輩にそうグチグチ言いながらも、内心は楽しい時間を過ごせて満足していた私。
先に来たタクシーに先輩を乗せて別れ、自分もタクシーに乗ろうと近くの駅のタクシー乗り場まで歩いていきました。
その道中、ちょうど空車のタクシーが前からやってきたため、「ラッキー!」と思った私は手を上げて、そのタクシーに乗ることにしました。
「○○までお願いします。」
私は普段と変わらない声のトーンで、家の近くの駅までお願いしました。しかし……。
「はぁ?」
すごく低い声で面倒くさそうに聞き返すドライバー。
少しムッとしましたが、ただ単に聞こえなかっただけかもしれないと、もう一度大きめの声で行き先を伝えました。
「あーあー、はいはい。」
行き先は伝わったようですが、何故か終始不機嫌なタクシードライバーの対応にモヤモヤした気持ちが収まりません。
(変なのに乗っちゃったなー。)
せっかく先輩といいお酒の時間を過ごせたのに、その高ぶる気分をかき乱されそうになりました。
しかし家までは30分もかかりません。
ここは耐えて動画でも見ながらゆっくりと過ごそうとスマホとイヤホンを取り出し、動画サイトを開こうとしていた直後から地獄の時間が始まりました。
危険運転
昼よりは少ないとはいえ、都会なので車もそこそこ多い深夜の道路で、妙にスピードを出すタクシー。
信号が黄色から赤に変わろうとしている時でさえ、まったく減速せずにそのまま突っ切っていきます。
手すりを掴んでいないと不安になってしまうほどの車の揺れとスピードに、とても動画を見ている余裕なんかありませんでした。
「あの、スピード落としてくれませんか?」
あまりに怖かったので思わずドライバーに言ってしまったのですが、聞こえていなかったのかわざとなのか完全無視。
それどころか軽く舌打ちまでされて、さっきよりも運転が荒くなっているような気さえします。
(ヤバイめっちゃ怖い……!!)
その頃には酔いもすっかり冷めて、家まで無事に帰れるのかという不安で心臓がバクバクしていました。
早く家に帰りたいと時計を見て深呼吸しながら落ち着こうとしますが、手も震えてそれどころではありません。
前との車間もギリギリのところを走っており、煽り運転を煽っている車側から見ているという、人生で普通に生活していたらお目にかかれないであろう最悪の時間を過ごしていました。
あわや大事故
(これ絶対事故る……!!)
そう思った矢先のことでした。
前の車が信号前でブレーキを踏み、タクシーのキキーーーッというブレーキ音が鳴り響きます。
間一髪のところでブレーキを踏むドライバーでしたが、あと少し遅れていたら確実に衝突していました。
「あっぶねーなー!!」
私が後ろに乗っているのもお構いなしで、クラクションを鳴らしながら前の車に大声で怒鳴るドライバー。
(いや、あなたが車間詰めすぎだからでしょ……。)
と心では思っていても、今まさに起きたこととドライバーの気性の荒さに命の危険を感じてしまい、口に出すことは絶対できません。
このまま乗っていたら本当に危険だと思った私は、勇気を振り絞って途中で降りようと決心しました。
「このへんで降ります!!」
絶対に聞こえるように少し叫び気味でドライバーに伝えたつもりでした。しかし、
「あん?」
としか言わず、止まる気配がありません。
「ここで降ろしてください!!」
私はさっきよりも大声でドライバーに降車の意思を伝えました。
しばらく黙って運転を続けていたドライバーでしたが、メーターがピッと上がった瞬間を見計らって道路脇に停車しました。
私から一円でも多く料金を取ろうとしていたのが見え見え!
心底腹が立ちましたが、なんとか事を荒げないように早くその場から立ち去りたかったので、表示された料金を支払いました。
その後はまた別のタクシーを拾って、家までは無事帰れました。
後にタクシー会社にクレームの電話を入れましたが、あのドライバーがどうなったのかは分かりません。
私の前にひどいお客さんを乗せたのか、私の何かが不満だったのか、あの人が元々ああいう性格なのかは分かりませんが、命を預けている以上、安全運転を心掛けてほしいものです。
それからしばらくの間は先輩の誘いを断って不満を言われたけれど、またあのタクシーに出くわして事故に遭うより絶対マシだと思えるほどでした。